感性の赴くままに写真を撮影することも、あるいは正解の場合もある:ウィリアム・クラインWilliam Klein ブレ・ボケ・アレを写真表現として確立したアメリカの写真家

投稿者: 5190343667gg

当ブログと補助ブログでよく取り上げる、英国の写真家Karl Taylorは、商業写真よりの人なので、どちらかというときっちり撮影することを指導しますが、

ブレを活かす撮影については、多くの人がタブー視したりしているが、メリットも有り、そしてブレを起こす長時間露光で生み出される魔法の表現に気が付かないことを、注意することがあります

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スローシャッターで被写体をぶらすことで生まれる美、というものがあるからです


さて、ブレ、ボケ、アレを、写真の表現として認めさせた先人は、アメリカの写真家ウィリアム・クラインWilliam Klein(April 19, 1926 – September 10, 2022)でした

日本国内のウィリアム・クライン解説とか研究は、生前の本人の意図を聞かずに、研究追跡する者たちの妄想が膨らんだような「童話的な」著述が多いので、本ブログは、本人にインタビューした人たちなどを中心に、クラインの意図を解説します

写真は、当初は記録ということが主目的でしたので、できるだけボケさせず、ブレさせずが常識のように言われ、クラインが写真を本格的に始めた1954年位もその価値観に支配されていました。

しかし、クラインはその常識にいちいち逆らうように写真を撮り始めます。

まあ、これを可能にしたのは世界的なファッション雑誌Vogueヴォーグの版元のアートディレクターに目を付けられ、ファッション撮影を始める傍ら、ニューヨークの人々の生活を記録する写真集「ニューヨーク」の撮影も援助してもらえたからですが

生前のクレインにインタビューした人が、その時の話をまとめています

Eric Kim: 10 Lessons William Klein has taught me about Street Photographyエリック・キム: ウィリアム・クラインがストリートフォトグラフィーについて教えてくれた10の教訓

DPReview

Published May 1, 2013 | erickimphotography

https://www.dpreview.com/articles/0160296055/eric-kim-10-lessons-william-klein-has-taught-me-about-street-photography/2

彼は最初にニューヨークのストリートで撮影した写真を本にしたかったのですが、

ニューヨークのような活気あふれる街や人々を表現するには、「わざと荒れた写真がよい」と考えついたのが、ぶれたりボケたり粒子で荒れたりする写真を作るきっかけだったと言います

‘The New York book was a visual diary and it was also kind of personal newspaper. I wanted it to look like the news. I didn’t relate to European photography. It was too poetic and anecdotal for me… the kinetic quality of new york, the kids, dirt, madness. I tried to find a photographic style that would come close to it. So I would be grainy and contrasted and black. Id crop, blur, play with the negatives. I didn’t see clean technique being right for New York.(上記DPReview記事より引用)ニューヨークの本はビジュアルな日記であり、個人的な新聞のようなものだった。【街の】ニュースのように見せたかったんだよ。ヨーロッパの写真には共感できなかった。私にとってあまりにも詩的で逸話的すぎるものだった。ニューヨークの躍動感、子供たち、汚れ、狂気。私は、それに近い写真スタイルを見つけようとした。だから、私は粒状でコントラストが強く、黒くなるようにした。トリミングしたり、ぼかしたり、ネガで遊んだり。ニューヨークにはクリーンなテクニックは似合わないと思った。

と、小綺麗でテクニカルに完璧な欧州の写真の作風は、雑然として活気にあふれるニューヨークの街を表現するには、全く不向きなので、生活感が出るように、ブラシたり、ボケさせたり、コントラストを上げたりして躍動感や狂気を再現しようとしたのが始まりだったと、インタビューに答えたとしています

構図も整えすぎると、荒っぽさ、躍動感がなくなるので、わざと構図を崩すのも、ニューヨークという街を表現するのに最適だったと考えたわけです

クラインは、写真の教育はほぼ皆無でしたが、絵の方をかじっていたので、絵の抽象表現を写真に持ち込むということには、もとから写真畑から来た人より抵抗がなかったのは当然です

ブレは良くないと殆どの写真家が習う時代

クラインは、

‘If you look carefully at life, you see blur. shake your hand. Blur is a part of life.’「日常生活を注意深く観察すると、ぼやけていることがわかります。 手を振ってみさない。【ぶれてみえるでしょ?】 ブレは人生の一部です。」(上記DPReview記事より引用)

と、実際に人間は止まっているものとしてものを見ていない事が多いどころか、ぶれたものを見ているのに、ブレを写真から排除することは、正しい写真の記録なのか?ブレを記録するのも写真だ。と、写真からブレを排除が正しいという、当時の常識をおかしいと考えていたことも紹介

彼は写真のテクニカルな基礎は全く無く写真を始め、その後も教えられたことと、正反対のことをすることに一生懸命でした。

写真の決まり事をいつも捻じ曲げ、自分のルールを作るのが、クラインの写真人生でした。

彼の時代は、フランスの写真家ブレッソンの提唱するルールが、まるで聖典のように尊ばれていましたが、彼はブラッソンに敬意を評しながら、

ブレッソンの言う事と逆のことをやることに夢中でした

ブレッソンは、ニュース写真のアルバイトから始めた経緯からか、写真は客観的であるべきと諭していましたが、

クラインは、ブレッソンも結局撮った写真の中から好きなものを選ぶ、主観的な行為を行っているのだから、写真は僕の主観で撮るのが良い

と我を曲げませんでした

William Klein: In Pictures

まあ、出版時は全く注目されなかった彼のニューヨークは、なんと19世紀はそういう写真を敵視することで有名だったフランスで、1957年に新人賞を取ってからがぜん注目を集めます


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写真におけるボケ、ブレ、アレなど、不完全性を表現に取り入れる作風の歴史

ウィリアム・クラインWilliam Klein、1950年代、写真は絵画ではできない表現手法ができるのが面白かったと、19世紀末期の写真は芸術たりえないとしたエマーソンとは逆の見解を示した