トキナーといえば独特の球面収差利用設計で柔らかいボケを出し、色はニュートラル、製造はユニット化などを極力避け、メンテナンスが後々やりやすい、製造部品のグレードの高さ(たまに東京都町田市の小さな工場故の、組立時のミスがあるのがクレームになっているのが見られる)。で有名なメーカーで、かつては同社AT-Xシリーズは、特にニコン用の互換レンズメーカーのトップブランドであった時期もあります。AF時代になると、tokinaのキヤノン用レンズは、レンズ内に内蔵させたモーターが非力なため、AFが遅くそれほど評判にはなりませんでした。
さらに球面収差をボケに利用した設計(色波長ごとのピント位置を変えるなどでうまくソフトな描写を出す)は、デジタル時代になると、フィルムでしか検証していなかった時代のレンズで、紫外線波長の狂いが生じるためにフリンジが大きめに出るということで悪評価となり、不評を買います。
また、もともとトキナーの得意な開放絞りでのソフトさやボケ表現といったものは、そもそもかなりの玄人でなければ評価されにくい代物で、そのクラスのユーザーは、ライカやツァイスなどを買うわけでトキナーは買いません。互換レンズをわざわざ買うユーザー層の需要(値段が安くて開放絞りでシャープなレンズがほしい=鉄道写真や飛行機撮りなどは特にそう)とは異なるものです。
トキナーは過去にも単焦点に匹敵するボケを生み出すAT-X60-120mm F2.8というズームを発売しましたが、開放がソフト、当時のズームとしては秀悦なボケも、一部の玄人が評価しただけで、一般ユーザーは見向きもせず、あっという間に製造中止となりました。*現時点でわざわざ中古あさりしてまで買うほどはないレンズです。
デジタルカメラ時代になると、拡大して鑑賞する等倍鑑賞がデジタル初期には特に流行ったので、等倍でのフリンジ絡みあらが目立つ。ライトユーザーには、堅牢だが、重いのが敬遠され、トキナーは今ではニッチなトキナー独特のボケ表現や色のニュートラルさ、プラモデルのように安っぽくなったニコン製の高級レンズに比べると、まだ高級品を醸し出すデザインと外観が好きな特定のファンが、ほそぼそ支えるブランドとなりました。でも儲からないのに独特のいぶし銀レンズを出し続けるトキナーは、効率優先の製品が多い今となっては貴重な会社ですね。トキナーが、ケンコーに合併されて、トキナー部門となってからも、他とは違い、設計者が好きなレンズを出せる、面白い部分は残っているようです。ケンコー自体が、一癖あるレンズだらけのレンズベビーとかも扱う会社だからでしょう。
AT-X 70-200mm F4 PRO FX VCM-S
そんな中、トキナーが満を持して手ぶれ補正機能・超音波モーター搭載・おおよそズームらしからぬボケ表現にこだわって出したレンズが下です。
AT-X 70-200mm F4 PRO FX VCM-S | 望遠レンズ – Tokinaトキナー
http://www.tokina.co.jp/camera-lenses/telephoto-lenses/70-200-f4-profx.html
が、たった二年で製造完了しちゃいました。かつてのあっという間に生産終了となった「ボケにこだわったポートレートズームAT-X 60-120mm F2.8」の歴史の再現でした。
まあ、理由は、発売時の価格設定(発売直後の実際の市場価格は税込12万4,200円前後)が「高すぎた」の一言に付きます。なにせシグマやタムロンのF2.8ズームが買える値段で、F4のズームを出したわけで、ニコンの70-200mm F4 VRとも3万ほどしか実売価格が違わなかった(中古ならトキナーの新品と同じ値段)。いかに部材のランクが高く、(単焦点と比べてレンズ設計に無理があるため抜け・ボケとかが汚い場合が多くなる)ズームレンズらしからぬボケ表現、工作精度の高いレンズでも(中身開けば、タムロンやシグマとは雲泥の差くらいトキナーは良質な設計・製造です)、ニコン互換品でしか無いトキナーレンズのF4ズームは売れません。シグマも一度70-200mm 2.8 OSを高値設定で売り出したところ、全く売れず、3割ほど定価を下げて売り出した経緯があります。
また実際は使うことはあまりないのですが、電圧の関係から各種電子連動テレコンが連動しないという、特にアマチュアには痛い弱点もありました。*追記・その後ケンコーテレプラスPro 300DGで実験、ものの見事に動かないどころか絞りすら連動しないので真っ暗ケッケの写真が撮れたw
自慢のボケ描写でしたが、海外で一番影響のあるKEN ROCKWELLがボケについて全く評価しなかった。むしろ逆光時の弱点を書かれた(特定の位置に太陽や光源がある場合に起こるので、普段使いで目くじら立てるほど弱くはないですが、その特定の位置を多用する人にはアウト)
Tokina 70-200mm Review – Ken Rockwell
http://www.kenrockwell.com/tokina/70-200mm.htm
国内の割りとアクセスの多いサイトでもボケ評価を全面に出さなかった
「交換レンズレビュー:AT-X 70-200mm F4 PRO FX VCM-S – デジカメ Watch」
https://dc.watch.impress.co.jp/docs/review/lens_review_2/651677.html
アサヒカメラも無難なレンズとしただけで、トキナー自慢のボケは評価してくれなかった
「試用レポート ケンコー・トキナー AT-X 70~200mm F4 PRO FX VCM-S …」
https://dot.asahi.com/asahicameranet/info/trialreport/140709.html
[↑の記事 2019年4月リンク切れ確認]
ヨドバシも「ボケはきれいな方です」としか書いてくれなかったw
http://photo.yodobashi.com/nikon/lens/atx70-200/
などなど後ろから鉄砲で打たれる状態+他のサイトも「どこのメーカーにもある細かい弱点は抜きにして、総合的には渋くていいレンズだが」価格がニコン純正と大して違わないんじゃだれかうのよという評価でした。
海外で唯一前面からこのレンズのボケを評価したのは、
Review: Tokina 70-200mm F4 AT-X Pro FX VCMS (Nikon F)
https://www.thephoblographer.com/2014/08/24/review-tokina-70-200mm-f4-x-pro-fx-vcms-nikon-f/
のサイトで、ツァイスの単焦点で撮ったかの如くの見事なボケ表現で、ズームレンズとしては特筆と取り上げたのですが、このサイトも「価格がニコン純正と大差がない」ことを理由に積極的に推薦しませんでした。
このレンズのボケ表現は、等倍で鑑賞すると、細かい点ではやっぱズームだね=無理してるなという感じが、特に後ろボケには出るのですが、前ボケを絡める構図で撮影、鑑賞サイズで眺めると、これまたうまい具合にピントの合った部分を引き立てるボケとなっている=まるでツァイスの銘玉で撮ったようだという、全体の仕上がりの「総合描写力でのボケがいい」と言うことです。「ソフトであるものの、一癖ある後ボケだが、妙に被写体をもり立てるボケで、前ボケとからめると絶妙」。ただ、こういったボケはかなり玄人クラス=いぶし銀の味でないと使いこなせないというわけで、一般アマチュアには活かすのが難しい。
大体銘玉というのは、アイドルグラビアや、ウェディング系とは異なる、渋い・シュールなポートレートを撮る人にありがたがられるものです。銘玉と呼ばれるレンズの、共通点は、後ろボケが柔らかくても、どことなく一癖ある(=後からのレタッチなどでの再現は困難)、逆に前ボケが素直というのが、銘玉と呼ばれるレンズの特徴。前ボケ後ろボケともクリーミーすぎると、パープリンちゃんポートレートになりますから、結婚式には最適でも、シュール系には合わない。
一般ユーザーのポートレートは子供を可愛く撮りたい、モデル撮影会などで無難に可愛い写真が撮りたいということなので、一般的には前ボケ入れず、後ろボケが主体の写真が目的でレンズを買います。要は大部分の人には、後ろボケだけが問題なわけで、後ろボケだけならどんなレンズでも、背景バックを単純にするとか、背景との距離を離すなどで、ボケが汚いのをごまかせるので、特にすごいレンズがなくても、ボケの質はコントロールできます。また単純なボケはレタッチ加工もありますしね。
周辺減光(Vugnetting)という点では、このトキナーレンズは大変優秀で、その後出たレンズより遥かに優秀
Lenstipの計測では、
70mm 時にF4で-074EV F5.6で-0.42ev F8で-0.17ev
135mm時に、F4のときに、-0.67ev, F5.6で-0.34ev, F8で-0.15ev
200mm時に、F4のとき、-0.77ev, F5.6のとき、-0.43ev, F8で-0.15ev
と圧倒的な性能
歪曲収差は
フルサイズで、70mm -0.61(糸巻き) 135mm +1.27(タル型), 200mm +1.73(タル型)と、これもズームとすれば良好な部類
APS-Cサイズカメラだと、70mm -0.47(糸巻き) 135mm +0.49(樽型), 200mm +0.77(樽型)と、一般撮影なら歪曲収差補正を無視していい好成績
コマ収差はF4開放でのフルサイズでも非常に低い、
ただし、口径食は二段絞ったF8でも解消せず、フルサイズ隅のレモンボケはF8でも完全には解消されないのが、気になる人には気になるところ。
トキナーレンズに共通だが、倍率色収差はやや多め、ただしこのレンズはニコン用しか発売されず、ニコンはD3,D300以降の全機種に、電子補正データーがないレンズでも、レンズの倍率色収差を自動検出して補正する倍率色収差自動補正機能が入っているので、ニコン機でJPEGかTIFF撮影をする分には、全く気が付かない。*マウントアダプターで、キヤノンやソニーなどの他社のカメラで使用する場合、倍率色収差を画像ソフトで補正することになる(ニコンの画像編集ソフトと、Affinity Photoには、JpegやTiffで撮影された画像の倍率色収差除去機能がある)
軸上色収差が原因のことが多い、パープルフリンジは、このクラスのレンズとしては抑えてある部類
全域中心部はシャープだが、周辺は絞ってもごく平均 ポートレートのたぐいの周辺をぼかす利用では周辺に向かって緩やかに解像が落ちていくのは、むしろ好印象なので、これは用途によるが、周辺まで解像がほしいことも多い、星空や、文献複写をこのレンズに過度の期待しないほうがいいということ。
Tokina AT-X PRO FX SD 70-200 f/4 VCM-S
16 September 2014 Lenstip
「KASYAPA | 216:ボケの綺麗な望遠ズーム『Tokina AT-X70-200mm F4 …
https://news.mapcamera.com/KASYAPA.php?itemid=24469
でようやくボケの賞賛が見れますが、Tokina 70-200mm F4 AT-X Pro FX VCMSの後ろボケが一癖あるとはいっても、ソフトにボケるわけで、ボケてないピントの合ったメインの被写体を引き立ててくれるボケ方なので、ごちゃごちゃした場所での表現にはいい。前ボケを絡めた場合は、全体の写真はもっと良くなる。ただしこの後ろボケが目的で買うには高すぎですね。このレンズがハマる状況で取れば、感動モノですが、以前書いた「オールドレンズの味わい」と一緒で、ハマるシーンをお膳立てできる人向けなわけです。
オールドレンズ・クラシックレンズの味わい
というわけで、例によってケンコー・トキナーのマーケットを無視した(トキナーのレンズを買うのは大部分アマチュア層)、いぶし銀のボケ表現(=こういうの欲しがるのはかなりの熟練者)にこだわったズームを10万以上出して買う人はいないのが当然=2年で製造終了。
以前当方はこのブログで互換レンズは、同等純正品の半値か、6割位の価格なら買いと書きましたので、割高で将来の互換性に不安のあるレンズは買いませんでしたが、生産終了後もアマゾンでは何故か新品が続々入荷され、海外公式で現行品扱い、公式には認めないだろうが影で輸出品は作ってるのか(それとも最後っ屁に生産終了最終ロットで大量に作り置きしたのか)?定期的に2割引きで実売7万弱、中古も6万前後で出回ったので、おもろいレンズとして買いましたw
AT-X 70-200 F4 FX VCM-S
http://www.tokinalens.com/tokina/products/atxprofx/atx70200f4fxvcms/
特にスポーツや、取材系の撮影をしない人で、このレンズ6万以下であれば何も文句はないです。
ボケは背景の単純なシーンなら28-300mm 5,6 VRと見分けがつかないかもしれませんが、ごちゃごちゃした背景と前ボケのシーンを撮影すると、このレンズならではの面白い一枚が撮れる。使っている材質のランクからしてタムロンとは大違いだし、今やプラモデルのニコンの純正品より、高級感もあるので素人騙しにも楽しい。バランスの良い大型のカメラと組み合わせると、200ミリ時でも手ブレ補正は三段とかいうことだが、実際は1/8秒くらいでも結構決まる。
できれば結晶塗装をして高級感をさらに出してくれればいい。ニコンのグリップ付きカメラとならバランスがいい。ただし非純正なので電子関連連動で100%互換もないし、公式には生産完了で、今後ニコンがトキナーに意地悪すると新製品で動かない可能性もある、また取材イベントとか失敗ショットを減らすのが最優先の場合は、電気連動の互換性からも、ボケが硬いけど中古の豊富な純正の70-200mm F4 VRを買いましょう。
(予算がないなら、もっと安い中古で2~3万で転がってるnikon 70-300mm F4.5-5.6G VRとかでも、70-150mmの間で使うなら、ボケ全般も後ろボケメインにすれば決して悪くはないです。nikon 70-300mm F4.5-5.6G VRは中古の安いのが多数転がってるので、中古で買って壊れたら買い替えでもOKトキナーのいぶし銀のボケ表現は、ファミリーユースで活かし切るのは難しい。
あるいは同じトキナーでも単焦点AT-X M100の方が、安くていいかもしれません。
以下は、ニコンのDX機(D5500)での200ミリ(換算300ミリ)のF5.6で撮影した例。実に上品な描写
モデルフィギュア・古手川唯さん 漫画「ToLOVEる」の風紀委員
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